高速道路120km/h時代に軽自動車やコンパクトカーは対応できるのか?

高速道路の様子現在、基本的に日本の高速道路の法定速度は100km/hとなっています。

あえて「基本的に」と書いたのは、一部の高速道路で制限速度が120km/hに緩和されたからです。

新東名高速道路の新静岡IC~森掛川IC間の上下約50㎞の区間で、2019年3月より「規制速度試行期間」として制限速度が120km/hになっています。

参考:新東名高速の最高速度が120km/hに引上げ

また、同様に東北自動車道の盛岡南IC~花巻南ICの約27km/hの区間でも、120km/h制限の試行が始まっています。

これまで、100km/hの制限速度になれてしまっているドライバーの多くは、高速道路を120km/hで走行することに不安を感じるかも知れません。

しかし、これまでの100km/hという日本の高速道路での法定速度は、先進国の高速道路のなかではもっとも低い数字なのです。

ドイツのアウトバーンには速度無制限の区間がありますし、フランス、イタリア、オーストリアなどの高速道路は130km/hが法定速度となっています。

スイスやスペインなどは120km/hですし、アメリカの75マイル制限の州も120km/hと考えていいでしょう。

そんななか、日本の高速道路もいよいよ他の先進国なみに法定速度を引き上げようとしているわけです。

ただし、他の先進諸国と日本国内では、あきらかに異なる部分があります。

それは、軽自動車という非常に排気量に小さなクルマの存在です。

日本国内を走っている乗用車のうち、実に35%は軽自動車なのです。

参考:日本国内の車種別構成比

660ccという小さな排気量のクルマが3台に1台以上も公道を走っている国は、日本以外にはありません。

こうした軽自動車天国の日本において、高速道路の制限速度を他の先進国に合わせて120km/hにすることは本当に問題ないのでしょうか?

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スタートから120km/hに達するまで35秒もかかるノンターボの軽自動車

100km/hから120km/hへの速度アップといっても、わずか2割の速度アップですから、たいしたことではないと思う人もいるかも知れません。

しかし、速度が2割アップすることになると、クルマを走らせるために必要なエネルギーは1.44倍となりますし、速度が増すにつれて空気の抵抗も大きくなります。

そのため、クルマの速度が100km/hまで達するのにかかる時間と、120km/hに達するまでにかかる時間には想像以上の開きが生じることになります。

たとえば、代表的なコンパクトカーであるトヨタのヴィッツが、スタートしてから100km/hに達するまでの時間は、ベストカー誌のデータによりますと13秒03です。

これが、スタートから120km/hまでとなりますと、18秒03となり、5秒もよけいに時間がかかることになります。

速度のアップはわずか20%ですが、そこに到達するまでにかかる時間は38%も余分にかかってしまうのです。

日産デイズ次に軽自動車であるデイズ(ノンターボ)でみてみますと、スタートから100km/hに達するまでの時間は21秒70です。

これがスタートから120km/hに達するまでには、34秒94もの時間がかかってしまうのです。

つまり、20%の速度アップのために61%も余分に時間がかかってしまうのです。

ノンターボの軽自動車にとって、スピードを120km/hまで上げるというのは、思った以上にハードルが高いようです。

こういったことを冷静に考えてみたときに疑問になるのが、高速道路の合流レーンの長さは本当に今のままでいいのかという点です。

合流レーンの長さはこれまで通りで本当に大丈夫か?

ちなみに、日本の高速道路は、制限速度が100km/hの区間での加速車線の長さを240m以上確保できるように設計をしているそうです。

デイズ(ノンターボ)が100km/hに達するまでの時間は21秒70ですから、ゼロからのスタートですと100km/hに達するまでに移動する距離を計算すると280mほどになります。

実際に合流車線に進入するときには、ゼロからスタートするわけではありませんから、100km/h到達までに必要な距離は240m以上あればギリギリなんとか大丈夫なのかも知れません。

しかし、これが120km/hまでとなると話は別です。

120km/hまで達するのにアクセルべた踏みで34秒94もかかるデイズ(ノンターボ)の場合、ゼロからスタートとして120km/hに達するまでの距離を計算すると400mほどになってしまうからです。

加速車線に進入するときの速度はゼロではないことを差し引いたとしても、ノンターボの軽自動車が240m程度の距離で本線を120km/hで走るクルマに合流するのは容易ではないと思います。

120km/hの速度で流れている本線に、十分に加速してきれていないクルマが合流するというのは危険を伴います。

もし、合流レーンで80km/hまでしか加速できずにそのまま合流をするとなると、本線を120km/hで走っているクルマとの速度差は40km/hにもなります。

これは、止まっているクルマの横を40km/hのクルマが走り抜けるのと同じ状態です。

交通量がそれほど多くない高速道路であれば、速度差があっても問題なく合流できるかも知れません。

しかし本線をつぎつぎに120km/hの速度でクルマが流れてくるような交通量の多い高速道路で、十分に加速しきれないクルマが合流をするというのはどう考えても危険です。

特に女性ドライバーのなかには、一気に加速をさせることが苦手な人もいるため、高速道路120km/h時代になると合流に恐怖を感じるという人も少なくないでしょう。

実際にあるアンケートによりますと、「制限速度が引き上げられると高速道路を走るのがいまよりも不安になるか」という質問に対して、そう思うと答えた人が男性では42.1%なのに対して、女性では68%にも達しています。

当初から120km/hで走行をすることを前提に合流レーンの長さ設計されているのであれば問題ありません。

しかし、100km/hで走行することがあたり前の時代に作られた高速道路を、当時の設計そのままの状態で制限速度だけをあげるというのは、かなり乱暴な気がします。

たかが法定速度を20km/h上げるだけと思うかも知れませんが、思った以上に奥は深いのです。

少なくとも、これから軽自動車を購入する予定の人で、高速道路を頻繁に走る可能性のある人は、ノンターボではなくターボ仕様にしておいた方が無難かも知れません。

車両価格は高くなってしまいますが、自分の身を自分で守るために必要な投資と割り切って考えるしかないでしょう。

日本の独自規格である軽自動車が高速道路を120km/hで走るリスク

日本の自動車メーカーは、高速道路の法定速度は100km/hであるということを前提に、クルマの設計をしているはずです。

もちろん、設計時にある程度の余裕は見込んでいるはずですので、120km/hで走ったからといって必ずしも危険な状態になるということはないでしょう。

特にある程度の大きなサイズのクルマであれば、高速道路の法定速度が日本よりも高い海外への輸出を視野に入れて設計をしていることも多いため、安全性能の面で問題になることはまずないと思います。

ところが、軽自動車の場合には、日本独自の規格によって日本国内でのみ販売することを前提に設計をしていますから、はたして高速道路120km/h時代に十分対応できるだけの安全性能が確保できているかどうかは疑問です。

タイヤの幅をみても、2000ccクラスのクルマであれば195mm~205mm程度が標準サイズなのに対して、軽自動車の場合は155mmが標準です。

タイヤのサイズが細くなれば、路面との接地面積が少なくなりますから、走行速度が高くなればコーナリング性能的に不安定になります。

もちろん、将来的に日本の高速道路の制限速度が全面的に120km/hということになれば、メーカーもそれに合わせて車を設計することになるでしょう。

しかし、公道を走る車というのは、高速道路120km/h時代に適合した最新の車種ばかりではありません。

10年以上前に作られたクルマも、最新のクルマと同じように道路を走っているわけです。

そういったことを考えた場合、高速道路の法定速度を100km/hからいきなり120km/hにあげるというのは、少なからずリスクを伴うことになると容易に想像ができると思います。

ちなみに平成12年9月までは、軽自動車の高速道路での法定速度は80km/hでした。

それが平成12年10月1日に普通車と同じ100km/hに引き上げられたわけです。

つまり、平成12年9月以前と比較した場合、軽自動車の高速道路での法定速度は40km/hもアップすることになるのです。

もちろん、高速道路の制限速度が120km/hということになれば、平成12年9月以前に作られた古い軽自動車も、120km/hで走行してもいいことになるわけです。

80km/hで走行することを前提に作られたクルマを、120km/hで走らせるわけですから、普通に考えれば危険です。

軽自動車の高速道路での制限速度が80km/hから100km/hに引き上げられてから19年ほどたちますので、さすがにそこまで古い軽自動車を乗り続けている人は少ないと思いますが。

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速いクルマと遅いクルマの速度差が生じるという問題

現在、日本の高速道路の法定速度は100km/hですが、だからといって必ずしも100km/hで走らなければならないということではありません。

高速道路の最低速度は50km/hとなっていますから、それ以上のスピードで走っていれば違反になることはありません。

走行速度の違いによる速度差しかし、実際に高速道路を走った経験がある方はお分かりかと思いますが、高速道路を50km/hのスピードで走るのは命がけです。

他のクルマが100km/h程度で走っている道路を、1台だけ50km/hで走ることになると、その速度差は50km/hにもなります。

自分以外のクルマとの速度差が50km/hもある状態で走り続けるということは、車線変更などのときに、かなりの危険を伴うことになります。

つまり、高速道路というものは単純にゆっくり走れば安全というものではなく、ある程度は流れに沿って走らないと逆に危険が伴うということになるわけです。

そのため、高速道路を50km/h程度のスピードで走っているクルマはまず見かけませんが、70km/h~80km/h程度で流しているクルマはよく見かけます。

そういったクルマは、法定速度である100km/hで走っているクルマとの速度差が20km/h~30km/hということになりますので、それほど危険を伴うということはないでしょう。

ところが、高速道路の法定速度が120km/hに引き上げられた場合、70km/h~80km/h程度で流して走っているクルマとの速度差は、40km/h~50km/hにもなってしまうのです。

これは、法定速度が100km/hである現在の高速道路を50km/h~60km/hで走るときに生じる速度差と同じです。

高速道路が120km/h時代になると、70km/h~80km/hの速度で流して走ることが命がけとなってしまう可能性もあるわけです。

120km/hで走るクルマとの速度差で危険を感じなくするためには、90km/h~100km/hほどのスピードで走る必要があるということになります。

軽自動車で追い越しをすることは困難になってしまう?

軽自動車のエンジンは660ccしかありませんから、普通車とくらべるとどうしてもパワー不足となります。

パワー不足の問題が顕著に表れるのが、高速道路で追い越しをするときです。

たとえば、前方を80km/hで走っているクルマを追い越そうと100km/hまで加速させるのと、100km/hで走っているクルマを追い越すために120km/hまで加速させるのとでは、エンジンにかかる負担はまったく異なります。

同じ20km/h加速をさせるだけですが、速度が上がれば上がるほど加速をさせるためにかかる時間は長くなります。

スピードを2割アップさせるためにはエネルギーは1.44倍必要になりますし、空気の抵抗もどんどん厳しくなっていくからです。

さらに、80km/hで走っているクルマを追い越そうと120km/hまで加速をする場合、40km/hのスピードアップが必要になります。

日産のデイズ(ノンターボ)で80km/hから120km/hまで加速させるためには、21秒75もかかってしまいます。

アクセルをベタ踏みしてもなかなか加速していかないクルマに、イライラさせられるに違いありません。

なかなか追い越しができずにもたもたしていると、後方から走って来たクルマにパカパカとパッシングをあびせられて、あおられまくることになります。

個人的に日産デイズには何の恨みもないのですが、やはりノンターボの軽自動車で制限速度が120km/hの高速道路を快適に走らせるというのは難しいと思います。

先ほども書きましたが、これから120km/h時代の高速道路を頻繁に利用するのであれば、ターボ仕様の軽自動車にすることを強くおすすめします。

ちなみにコンパクトカーであるヴィッツが80km/h~120km/hまで加速するのに要するタイムが10秒ですから、それほどストレスなく追い越しができると思います。

やはり、高速道路120km/h時代に安全にクルマを走らせるためには、エンジンパワーを侮ってはいけないのです。

文・山沢 達也

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