なぜ悪路を走らないスポーツカーに4WDが採用されるのでしょうか?

走行中のブルーのGTR4WDというとクロカンやSUVといった車種を思い浮かべる人が大半でしょう。

4WDは4つのタイヤが駆動をすることになりますので、悪路や雪道を走行するときなどに能力を発揮することができますので、クロカンやSUVといったクルマの性質を考えれば当然といえるでしょう。

しかし、そんなイメージとは裏腹に、日本を代表するスポーツカーであるGT-Rが4WDであるということをご存知でしょうか?

もちろん4WDを採用するスポーツカーはGT-Rだけではありません。

スバルのWRXなども伝統的にそうですし、世界的なスポーツカーであるポルシェ911カレラ4なども4WDシステムを採用しています。

いったい、こうしたスポーツカーが4WDを採用するメリットはどこにあるのでしょうか?

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そもそも4WDとはどのような駆動方式?

一般の車の場合は、前輪のみ、あるいは後輪のみが駆動する形になります。

前輪が駆動する形式をFF、後輪が駆動する形式をFRなどと呼んだりします。

かつては、車の駆動方式というのは後輪が駆動するFRが主流でした。

しかし、最近ではエンジンを横置きにできることやドライブシャフトが不要になることで、広い室内スペースを確保することができるFF方式が主流になっています。

それらの駆動方式に対して、前輪と後輪を同時に駆動させる方式が4輪駆動、すなわち4WDということになります。

4輪駆動を略して「ヨンク」などと言ったりもします。

・手動で切り替えるタイプのパートタイム4WD

この4WDには、フルタイム4WDと呼ばれるものと、普段は前輪か後輪のどちらかを使って走らせて、悪路などを走るときだけ駆動力の高い4WDに切り替えるという方式のパートタイム4WDがあります。

かつてのオフロード車などは、このパートタイム方式の4WDを採用していました。

そういったオフロード車に採用されていたパートタイム方式では、センターデフを持たないために、きついコーナーを曲がろうとすると駆動系に負荷がかかる「タイトコーナーブレーキ現象」が起こり、まさにブレーキがかかったような状態になってしまいました。

センターデフではなく、前輪と後輪に別々のディファレンシャルギアを持っているために、前後輪に回転差が生じてしまうことで「タイトコーナーブレーキング現象」が起こってしまうわけです。

そのため、普段は後輪のみを駆動させるFR方式で走り、悪路などで駆動力が欲しいときのみ手動で4WDに切り替えるようにしているわけです。

ちなみに、ディファレンシャルギアというのは、コーナーを曲がるときに内側のタイヤと外側のタイヤの回転数の違いを吸収して、スムーズに曲がれるようにするための装置です。

・主流になっているフルタイム4WD

パートタイム4WDの場合、このディファレンシャルギアが前後についているために、クルマの重量そのものが非常に重くなってしまうということと、タイトブレーキング現象があるために4輪駆動状態で走らせることのできる場所が限られてしまうというデメリットがありました。

ところが現在主流のフルタイム4WDの場合には、4輪の中心にディファレンシャルギアを設置するセンターデフ方式を採用しているために「タイトコーナーブレーキング現象」は起こりませんし、重量的にもそれほど重くはなりません。

そのため、どのような道路であっても2WDと同じような感覚で4WDのクルマを運転することが可能になったわけです。

現在では、4WDといえばこのフルタイム4WDのことを指すといってもいいでしょう。

スポーツカーに4WDが採用される理由

3台のスポーツカーのイラスト雪道や悪路を走るクルマに採用されるイメージの強い4WDです。

しかし、GT-Rやポルシェ911カレラ4のような、舗装された道路を高速で走らせることを前提に作られているスポーツカーに採用されているのも事実です。

いったいどのような理由でスポーツカーに4WDが採用されているのでしょうか?

・4輪が同時に回ることで駆動力のロスを防ぐことが可能

クルマが持つ本来の性能を発揮するためには、エンジンから伝わってくる駆動力をしっかりとロスのない状態で路面に伝える必要があります。

特に、急加速をしたりする場合に、タイヤのグリップ力を上回る駆動力が伝わると、ホイールスピンを起こしてしまいます。

ホイールスピンを起こすということは、すなわちエンジンから伝わってきた本来の駆動力をそこで逃がしてしまうことになるわけです。

ところが、前輪と後輪を合わせて4つのタイヤでしっかりと大地をつかむことによって、ホイールスピンを極力少なくすることができるわけです。

タイヤが激しくホイールスピンをしているクルマはいかにも速そうなイメージがありますが、実際にはタイヤがただ空転しているだけで、クルマそのものは思ったほど前に進んでいないということになります。

もともと4WDが雪道に強いといわれるのは、2WDにくらべてホイールスピンを起こしにくいからに他なりません。

また、4WDがスポーツカーにとって有利なのは、急加速のときだけではありません。

アンチロックブレーキシステム(ABS)やホイールスピンを制御するTRC、カーブを曲がる際に起こりやすい横滑りをおさえるためのVCSなどを制御しているスキッドコントロールシステムと4WDの制御を連動させることで、コーナーリングスピードを上げることが可能なのです。

さらに、GT-Rなどの場合、4WDシステムを採用することによって、前輪と後輪の重量配分も理想的な状態にしています。

クルマのコーナンリング性能をアップさせるためには、前輪と後輪の重量配分をなるべく均等にする必要が出てきます。

フェラーリやカウンタックといったスーパーカーが、前輪と後輪の間にエンジンを搭載するミッドシップと呼ばれる方式を採用しているのは、重いエンジンをボディの真ん中に置くことによって、車の重量バランスが良くなるからです。

ところが、同じスポーツカーであっても運転席の前にエンジンがあるクルマの場合、重量的にはどうしてもフロントヘビーになってしまいます。

そこで、GT-Rの場合には、ボンネット内のエンジンを前輪の車軸よりも後方に置くフロントミッドシップ方式をとり、なおかつ重量のあるミッションとセンターデフを一体化して後部座席下部に配置することで、前後の重量バランスを限りなく50:50に近づけているのです。

・つねに4輪が駆動しているわけではないGT-R

GTRの左後方GT-Rの駆動方式は一般的にフルタイム4WDなどといわれていますが、厳密にいえばフルタイムで4輪が駆動しているわけではありません。

センターデフ方式を採用しているクルマの場合は、一般にフルタイム4WDと呼ばれることが多いですが、実際に普段走行しているときには後輪、あるいは前輪だけしか駆動していないのです。(GT-Rの場合は後輪のみ)

しかし、急加速などをして後輪がスリップしたことを感知すると、瞬時に前輪に駆動力が発生して4WD状態になるのです。

こういった制御をすることによって、機械的なロスを減らし、4WDの宿命である燃費の悪さなどを改善しているわけです。

しかし、4WDが存在感を発揮視するのはホイールスピンを起こしやすい状況であるということを考えてみますと、GT-Rのシステムはつねに4輪が駆動している状態と同等の効果が期待できるといっていいでしょう。

このように、センターデフを持つ方式のフルタイム4WDであっても、つねに4輪が駆動しているというわけではなく、コンピュータ制御によって2WDと4WDを切り替えながら走っているわけです。

手動で2WDと4WDを切り替える方式をパートタイム4WDと呼んでいるために、便宜的にフルタイム4WDと呼んでいるわけです。

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フルタイム4WDにデメリットはあるか?

スポーツカーに採用されるほど走行性能の向上が期待できるフルタイム4WDですが、デメリットももちろんあります。

まず、センターデフという複雑な装置を設置して4つのタイヤの駆動を制御するわけですから、それなりに製造コストはアップすることになります。

そのため、2WDのクルマにくらべて、車両価格が高めとなってしまいます。

また、4つのタイヤを駆動させるための装置を設置することで車両重量が増えてしまうことと、2WDにくらべて複雑なメカが駆動することになりますので、燃費が悪化する傾向にあります。

これらのデメリットのなかで、特に車両重量が増えるという点に関しては、スポーツカーにとっては致命的であるように感じるかも知れません。

同じエンジンパワーであれば、ボディは軽い方が車の動力性能は高くなるからです。

しかし、GT-Rのように圧倒的なエンジンパワーがあるクルマにとっては、重量アップによって発生する動力性能の低下よりも、タイヤがしっかりと大地をとらえることができないことによるロスの方が問題となってしまうのでしょう。

そういった意味では、GT-RのようにパワーがあるわけではないSUVなどの場合、4WDであることのデメリットの方が大きくなってしまう場合もありそうです。

雪道や悪路を走るということがほとんどない人にとっては、普通に2WDのクルマを購入したほうが、燃費や動力性能、価格といったさまざまな面でメリットがありそうです。

文・山沢 達也

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